インフルエンザ弱毒生ワクチン(フルミスト)は、インフルエンザを流行させるのか?|千里丘の小児科「たいちこどもクリニック」の医院ブログ

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インフルエンザ弱毒生ワクチン(フルミスト)は、インフルエンザを流行させるのか?

SNSを見ていると、少し驚く情報に遭遇しました。

テレビ番組の一部を切り抜いた映像で、ある医師が「フルミストを接種した人から、他の人にインフルエンザウイルスがうつる可能性がある」と説明していました。

これは全くの間違いではありません。しかし、この部分だけを見ると「フルミストを接種すると、周囲の人にインフルエンザをうつしてしまう」と受け取られかねません。

そこで今回は、フルミスト接種後の「ワクチンウイルスの排出」と「人から人への感染(水平伝播)」について、実際の研究結果をもとに説明したいと思います。

【フルミストは「生ワクチン」です】

フルミストは、病原性を弱めたインフルエンザウイルスを使用する「弱毒生ワクチン」です。

鼻の中に噴霧されたワクチンウイルスが鼻咽頭の粘膜で一時的に増殖し、それに対して免疫反応が起こることによって、インフルエンザに対する免疫を獲得します。

そのため、接種後しばらくの間、鼻からワクチンウイルスが排出される(shedding)ことがあります。

2008年に5~49歳の344人を対象として行われた研究では、ワクチンウイルスの排出は5~8歳で44%、9~17歳で27%、18~49歳で17%に認められました。排出は接種後1~11日に確認され、最も多かったのは接種2日後でした。

つまり、

「フルミスト接種後に、鼻からワクチンウイルスが検出されることがある」

ということ自体は事実です。

【では、そのウイルスが他の人にうつるのでしょうか?】

この問題を直接調べた興味深い研究があります。

2006年、保育施設に通う9~36か月の健康な幼児197人を対象として、フルミスト接種児から非接種児へワクチンウイルスが伝播するかどうかが調べられました。

フルミストを接種した98人のうち80%からワクチンウイルスが検出されました。

しかし、ワクチンウイルスが他の子どもに伝播したことが確実に確認されたのは1例でした。

この研究から推定された伝播の確率は約0.58%(95%信頼区間 0~1.7%)でした。

つまり、鼻からワクチンウイルスが排出されることと、そのウイルスが実際に他の人へ感染することは同じではありません。

【「ワクチンウイルス」と通常のインフルエンザウイルスは違います】

もう一つ大切なのは、フルミストに使用されているウイルスは、自然界で流行している通常のインフルエンザウイルスそのものではないということです。

フルミストのワクチンウイルスは、低い温度では増殖できますが、体温に近い高い温度では増殖しにくい性質(温度感受性)を持たせ、病原性を弱めています。

実際、先ほどの研究で他の子どもへの伝播が確認されたワクチンウイルスについても、弱毒化された性質は保たれていました。また、その子どもに認められた症状は軽度でした。

したがって、

「フルミスト接種後にワクチンウイルスが鼻から排出される」
    ↓
「周囲の人にインフルエンザを流行させる」

と単純に結びつけることはできません。

【ただし、重度の免疫不全の方には注意が必要です】

一方で、フルミストが「生ワクチン」である以上、注意すべき場合があります。

造血幹細胞移植後など、重度の免疫不全があり、厳重な感染防御を必要としている方との濃厚な接触については注意が必要です。

このような特殊な状況を除けば、フルミストを接種したことだけを理由として、通常の学校、幼稚園、保育園への登校・登園を控える必要はありません。

【まとめ】

フルミストについては、

・接種後、鼻から弱毒化されたワクチンウイルスが排出されることがある

・特に小さな子どもでは、ワクチンウイルスが検出される割合が高い

・しかし、排出されたウイルスが他の人へ実際に伝播することは非常にまれ

・確認されたワクチンウイルスも弱毒化された性質を維持していた

ということが研究から分かっています。

「ウイルスが検出されること」と「周囲にインフルエンザを流行させること」は、同じではありません。

SNSなどでは情報の一部分だけが切り取られることで、必要以上に不安を感じてしまうことがあります。

フルミストも他のワクチンと同様に、メリットだけでなく注意すべき点もあります。その特徴を正しく理解したうえで、接種を検討していただければと思います。

【参考文献】

1. Vesikari T, et al. A randomized, double-blind study of the safety, transmissibility and phenotypic and genotypic stability of cold-adapted influenza virus vaccine. Pediatr Infect Dis J. 2006;25(7):590-595.

2. Block SL, Yogev R, Hayden FG, et al. Shedding and immunogenicity of live attenuated influenza vaccine virus in subjects 5-49 years of age. Vaccine. 2008;26(38):4940-4946.

3. FluMist (Influenza Vaccine Live, Intranasal), Prescribing Information. U.S. Food and Drug Administration (FDA).

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